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劇団四季 マンマ・ミーア! WATERLOO RADIO

『CHESS THE MUSICAL』フローレンスの言動・行動を解くカギは ?

皆様は「『ある』ミュージカル」が公演されているときは何回観に行かれるでしょうか?僕は「最低3~4回」は観に行きます。その理由は「思わぬハプニング」が起こったり、「俳優のテンションが変化したり」するからです。ミュージカルは映画と違い「LIVE」ですので、舞台の上ではいつ何が起こるかわかりません。今回の『CHESS THE MUSICAL』でも、例えばアナトリー役のラミン・カリムルー(以下、敬称略)を追ってみても、その傾向が前半と後半では異なりました。

『山頂のデュエット』(アナトリーとフローレンスが恋に落ちるシーン)では前半の上演ではやや硬かったのですが、後半の公演ではあたかも「ヨーデル」のように「レイレリホー」とアナトリー(ラミン)は叫んでいました。また最後の『空港で』の場面では、当初はアナトリーとフローレンスの「KISSシーン」は3~5秒程度でしたが、後半では「1分以上」続きました。これはラミンのアドリブなのか?それとも演出のニック・ウィンストンの指示であったかどうかは不明です。ただ一つ言えることは日本人の俳優と違い、外国人の俳優は「異常にテンションが高くなる」ことを頻繁に目にします。公演後、取材をしてみると「アドレナリンが出まくって、オーバーアクションをしてしまった」という回答が返ってきます。このようにミュージカルは前半と後半ではテンションが全く違います(場合によっては「KISSシーン」は相手の女優から「(男優の)口臭が臭かった」と笑い話を聞くこともありますが)。

今回の『CHESS THE MUSICAL』はいかがだったでしょうか?多くの皆さんにインタビューしたところ「フローレンスの言動行動がわからなかった」と言う意見を一番多く聞きましたので、そのことについて、ご説明いたします。

フローレンスは、1984年にイタリア・メラノで開催された『ワールド・CHESS・チャンピオンシップ』で7年間の交際していた恋人・フレディと別れ、アナトリーと『恋に落ちる』どころか『愛の逃避行』でイギリスに旅立ってしまいます。そして1年間、アナトリーと愛を育み、1985年タイ・バンコクで開催された『ワールド・CHESS・チャンピオンシップ』に参加します。そこで初めてアナトリーの妻・スヴェトラーナと出会います。ですがフローレンスは「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウエル(I KNOW HIM SO WELL)」のシーンで、愛しているはずのアナトリーのことを「彼には家族が必要なのよ」と「矛盾した言動」を発します。
この発言に対して観劇者は「フローレンスは頭がおかしくなったの?」「フローレンスは飽きっぽい性格?」「フローレンスは単なるわがまま女?」「フローレンスは大の男好き?」など様々な考えを思いめぐらしたことでしょう。
実は1984年以来(1984年『CHESS IN CONCERT』上演開始、1986年ミュージカル『CHESS』上演開始)、『CHESSファン』『CHESSマニア』の間でも理解が異なる場面なのです。

歌詞を見てみましょう。
[FLORENCE]
Nothing is so good it lasts eternally
Perfect situations must go wrong
But this has never yet prevented me
Wanting far too much for far too long.
Looking back I could have played it differently
Won a few more moments who can tell
But it took time to understand the man
Now at least I know I know him well

この訳を多くの演出家は筆者同様、以下のように訳しています。
[フローレンス]
素敵なものには必ず終わりがある
完璧なものでさえどこからか
ひび割れが起こることもある
それでもこなごなになることなく
できるだけ長くもてば良いと願う
振り返るとふと思う
もし、あの時違う風が吹いていたらと
もう少し時間が持てたかもしれないと
彼を知るのには時間がかかりすぎたのね
でも、今だったら私には彼のことがよく分かる

ここまでは「異論」はないでしょう。しかし「問題」は次の箇所です。
[FLORENCE]
Wasn’t it good?
Wasn’t he fine?
Isn’t it madness
He can’t be mine?
[SVETLANA]
Oh so good
Oh so fine
He can’t be mine?
[FLORENCE]
But in the end he needs
A little bit more than me —
More security
[SVETLANA]
He needs his fantasy
And freedom

素晴らしがったわね(スヴェトラーナ:素晴らしかったわ)
彼は素敵だったわね(スヴェトラーナ:そう、とっても)
全く馬鹿みたい
[二人一緒に]
私のものにならないなんて
[フローレンス]
結局、私じゃ物足りないのよね……
彼が求めているのは冒険じゃなくて
いつも安全な何か
[スヴェトラーナ]
夢と自由が必要なのよ

当時ソビエトは「共産主義国」でした。民主主義でいうところの「自由」はありませんでした。その為、アナトリーの妻・スヴェトラーナは「私に与えることが不可能であった『夢と自由』をフローレンスは与えてくれた」とフローレンスを褒めたたえます。しかし肝心のフローレンスは一年間アナトリーと過ごし、出た結論が「結局、私じゃ物足りないのよ」「彼が求めているのは冒険じゃなくて」「いつも安全な何か」と悟ります。
今回、演出家のニック・ウィンストンはそのフローレンスが語る(歌う)シーンの歌詞を「彼には家族が必要なのよ」とわずか“一行”でフローレンスの今の気持ちを言ってのけました。

ここ10年間の海外の『CHESS』や梅田芸術劇場主催の『CHESS』ではフローレンスが「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウエル(I KNOW HIM SO WELL)」の場面で、スヴェトラーナに向かって「アナトリーは私ではなく『家族』が必要なのよ」と訳した演出家はいません。ではなぜ今回、演出家のニック・ウィンストンはこのように訳したのでしょうか?これには「欧州」「アメリカ」「日本」の『家族に対する考え方』の違いがあります。

クレジットには「作曲:ベニー・ビヨルン(ABBA)」「作詞:ティム・ライス」となっていましたが、実際のところ「曲の歌詞を書いたのはビヨルン」で、それをティム・ライスがミュージカル風にまとめたというのが本当のところです。
「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウエル(I KNOW HIM SO WELL)」がリリースされた1984年、イギリスでは大ヒットしましたが、アメリカや日本ではヒットしませんでした(その代り「ワン・ナイト・イン・バンコク(ONE NIGHT IN BANGKOK)」は大ヒットし、全米3位になりました)。 なぜ日本やアメリカでは「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウエル(I KNOW HIM SO WELL)」はヒットしなかったのでしょうか?多くの方に取材したところ「歌詞の意味がわからない」と言うのです。恐らく、多くの演出家も「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウエル(I KNOW HIM SO WELL)」の訳には苦労したことでしょう。

ビヨルンが生まれたスウェーデンでは、例えば、奥さんと別れても、新しい家族の夕食会に元妻を同席させたり、中には自分の結婚式やパーティに「元嫁」を招待したりします。我々日本人には到底理解できないことでしょう。しかしスウェーデンを筆頭に、欧州での「別れた夫婦像」は前述した傾向に近いようです。アメリカでは夫婦が別れても「子供がいる場合」頻繁に会ったりするようですが、スウェーデンほど、元妻とは親密ではありません。

これを皆様の「恋愛」に置き換えてみましょう。
せっかく出会った人でも、即、うまくいく場合もあれば、「やっぱり、違うなあ」と思い、お付き合いするのをやめることもあると思います。また付き合っているうちに「不安」になることもあるかと思います。今回のフローレンスの場合は「後者」でしょう。
アナトリーは共産主義国に生まれようが生まれまいが「真面目」で「融通が利かない」性格だったのだと思います。いつも頭の中にあるのは『CHESS』のことばかり。そしてあろうことか「私の名声をなぜ、皆は認めてくれないのか?」と最後の方で大絶叫します!アナトリーは共産主義国では得られなかった『名声』を自由主義国で得ようとしますが、結局、思うように得ることはできませんでした。フローレンスはそうした「男のロマン」に共感できる女性ではなかったのだと思います。
またフローレンスは『ハンガリー動乱』で父をソビエトに連行され(恐らく殺されたか、餓死したか)、自らは母とやっとの思いでイギリスにたどり着きます。フローレンスが求めていたのは『家族の愛』でした。しかし、アナトリーの心の中にはいつも「ソビエトに置いていった家族」のことがあるのではないか?と(勝手に)想像してしまいます(家族に対する「ねたみ」「うらやましさ」があったのかもしれません)。同様に「一番の関心ごとは私(『愛』)ではなく『CHESS』のことばかり」とどこかで思ってしまったのでしょうね。いくらアナトリーが「誠実な男」でも、父親を亡くした(殺された)と思っていたフローレンスには、アナトリーという「父親で」かつ「真面目な『CHESS』チャンピョン」である男を受け止める度量がなかったのだと思います。フローレンスが求めていたのは“たった一つ”。「アナトリーに『CHESS』もなにもかも捨てて、私と『家族』を作ってほしい」。フローレンスはアナトリーと「恋に落ちた」時に「この人とならば、私の望み(家族が持てる)は叶えられる」と“真剣に”願っていたのではないでしょうか?しかし、一年間、一緒に暮らしていて、「アナトリーとでは私の『夢』は叶えれない」と「不安」に陥ってしまったのでしょう。ですがそれでもフローレンスはアナトリーを愛していました。恐らく最後の「空港で」の場面では「本音」と「大見栄」の両方を抱えたまま、アナトリーをソビエトに帰順させたのではないでしょうか?

このように『CHESS』は演出家によって「解釈」が変わる“不思議なミュージカル”です。『マンマ・ミーア!』のように、単純に「喜怒哀楽」が得られないミュージカルなのです。1986年ロンドンで公演された後、ブロードウェイでも上演されましたが、わずか「3週間」で終わってしまったのも、「解釈の違い」が大きく起因していたのではないか?と筆者は思います。

果たして、皆様がフローレンスだったら、アナトリーをソビエトに帰らせてしまいますか?

「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウエル」(I KNOW HIM SO WELL)  
[FLORENCE]
Nothing is so good it lasts eternally
Perfect situations must go wrong
But this has never yet prevented me
Wanting far too much for far too long.
Looking back I could have played it differently
Won a few more moments who can tell
But it took time to understand the man
Now at least I know I know him well
[FLORENCE] 
Wasn’t it good?
Wasn’t he fine?
Isn’t it madness
He can’t be mine?
[SVETLANA]
Oh so good
Oh so fine
He can’t be mine?
[FLORENCE]
But in the end he needs
A little bit more than me —
More security
[SVETLANA]
He needs his fantasy
And freedom
[FLORENCE]
I know him so well.
[SVETLANA]
No one in your life is with you constantly
No one is completely on your side
And though I move my world to be with him
Still the gap between us is too wide.
[FLORENCE]
Looking back I could
Have played things
Some other way
[SVETLANA]
Looking back
I could Have played it
Differently Learned about the man
Before I fell
[FLORENCE]
I was just a little Careless maybe
[SVETLANA]
But I was Ever so much
Younger then
Now at least
[FLORENCE]
Now at least I know him well
[BOTH]
I know I know him well
[SVETLANA]
Wasn’t it good?
Wasn’t he fine?
Isn’t it madness
[FLORENCE]
Oh so good
Oh so fine
[BOTH]
He won’t be mine?
Didn’t I know
How it would go?
If I knew from the start
Why am I falling apart?
[SVETLANA]
Wasn’t it good?
Wasn’t he fine?
[FLORENCE]
Isn’t it madness
He won’t be mine?
[SVETLANA]
He won’t be mine?
[FLORENCE]
But in the end he needs a
Little bit more than me —
More security
[SVETLANA]
He needs his
Fantasy and freedom
[FLORENCE]
I know him so well
[SVETLANA]
It took time to understand him
[BOTH]
I know him so well

『I KNOW HIM SO WELL』(筆者訳)
[フローレンス]
素敵なものには必ず終わりがある
完璧なものでさえどこからか
ひび割れが起こることもある
それでもこなごなになることなく
できるだけ長くもてば良いと願う
振り返るとふと思う
もし、あの時違う風が吹いていたらと
もう少し時間が持てたかもしれないと
彼を知るのには時間がかかりすぎたのね
でも、今だったら私には彼のことがよく分かる
素晴らしがったわね
(スヴェトラーナ:素晴らしかったわ)
彼は素敵だったわね
(スヴェトラーナ:そう、とっても)
全く馬鹿みたい
[二人一緒に]
私のものにならないなんて
[フローレンス]
結局、私じゃ物足りないのよね……
彼が求めているのは冒険じゃなくて
いつも安全な何か
[スヴェトラーナ]
夢と自由が必要なのよ
[二人一緒に]
彼のことがよく分かる
[スヴェトラーナ]
人生、永遠に関係が壊れそうじゃない
人間なんていない
いつもその人のそばにいても
完璧な愛情(友情)関係なんてありえない
彼のそばにいるために
私の世界を変えたとしても
二人の溝は、あまりにも深すぎるんだわ
振り返ると思う、
もし、あの時、違う風が吹いていたとしたら
もし、あの時、違う風が吹いていたとしたら
(フローレンス:振り返ると思う、他の道もあったのにと)
恋の虜になる前にもっとよく知るべきだった
(フローレンス:少し気を許していたのね)
まだまだ私もお嬢ちゃまね
(フローレンス:今、彼のことがよく分かる)
彼のことがよく分かる 素晴らしかったわね
(フローレンス:素晴らしかったわね)
彼は素敵だったわね
(フローレンス:そう、とっても)
全く馬鹿みたい
[二人一緒]
私のものにならないなんて
自然に成り行きにまかせて
全然、気がつきもしなかった
二人の未来がどうなるなんて
わからなかっただろうに
どうして、今、私は傷つくの?
[スヴェトラーナ]
素晴らしかったわね
彼は素敵だったわね
[フローレンス]
全く馬鹿みたい
[二人一緒に]
私のものにならないなんて
[フローレンス]
結局、私じゃ物足りないのよね……
彼が求めているのは冒険じゃなくて
安全な何か
[スヴェトラーナ]
夢と自由が必要なのよ
[フローレンス]
彼のことがよく分かる
[スヴェトラーナ]
彼を知るのに時間がかかりすぎた
[二人一緒に]
でも今なら、彼のことがよく分かる


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