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勝利の一手:『CHESS』キャストアルバムが証明する、ミュージカルにおける物語性の力

「まあ、俺が最高だってことは分かってる。でも連中が求めているのはショーなんだろ?いいさ、望むなら見せてやる――」
― フレディ・トランパー「ホワット・ア・シーン/ホワット・ア・ジョイ」

*(掲載画像:ペイサー・グラフィック/ディラン・サルサー)

1972年、ボビー・フィッシャーボリス・スパスキーによる世界CHESS選手権に着想を得て誕生した『CHESS』は、1984年のコンセプト・アルバム発表以来、10回近く書き直されてきたミュージカルでありながら、いまだに物語として完全に定着したとは言い難い作品でもある。

当初は、『ジョセフ・アンド・ザ・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』や『ジーザス・クライスト・スーパースター』『エビータ』などで知られるティム・ライスが脚本を担当し、冷戦下のアメリカとソ連の緊張関係を、世界チェス選手権を通して描いた。

音楽は、ABBAで知られるベニー・アンダーソンビヨルン・ウルヴァースが手がけている。
その音楽は作品の中心的存在となり、「ワン・ナイト・イン・バンコク」や「アイ・ノウ・ヒム・ソウ・ウェル」といったヒット曲を生み出し、1980年代に広く人気を博した。

『CHESS』は、多くのミュージカルファンにとって「隠れた名作」として愛され、数年ごとに上演され続けてきた。そして2025年10月には、ついにブロードウェイでの本格的なリバイバル公演が実現した。

出演は、
フレディ・トランパー役にアーロン・トヴェイト
フローレンス・ヴァッシー役にリア・ミシェル
アナトリー役にニコラス・クリストファー
アービター役にブライス・ピンカム

脚本は『ギルモア・ガールズ』で知られるダニー・ストロングが新たに手がけ、主演だけでなくアンサンブルも含めたキャスト全体の素晴らしい演技により、この作品は一躍注目作となった。

ファンの強い要望に応え、2026年4月10日、ついにキャスト・アルバムがリリースされた。

メラーノ/ホワット・ア・シーン/ホワット・ア・ジョイ

これら3曲は一連の流れとして構成され、通常は1曲として扱われることも多い。

「メラーノ」ではアンサンブルが輝きを放ち、作品全体に明るく、どこか希望に満ちた雰囲気をもたらす。
イタリアのメラーノの市民たちが、自分たちの歴史やチェス大会によって街が活気づく様子を歌い上げる。

物語の展開を知っていると、この温かさはやや不釣り合いにも感じられるが、それこそがこの楽曲の魅力でもある。

そのエネルギーはそのまま「ホワット・ア・シーン/ホワット・ア・ジョイ」へと引き継がれ、ここでフレディ・トランパーが衝撃的な登場を果たす。

トヴェイトは瞬時に、フレディを傲慢で混沌とした、しかし強烈な魅力を持つ人物として確立する。
その歌声は鋭く攻撃的で、彼の自尊心と注目を求める欲求を完璧に表現している。

これは単なるパフォーマンスではなく、ひとつの「宣言」である。
フレディはチェスをしに来たのではない。この場を支配するために来ているのだ。

フレディの内面の崩れ

この場面で、フレディの内面にひびが入り始める。
傲慢さは次第に防御的な態度へと変わり、自信と不安定さの境界が曖昧になっていく。

彼の発言は計算されたものではなく、感情的な反応へと変わり、周囲の混乱をさらに加速させる。
記者たちは追及を強め、緊張感は一気に高まる。

フローレンスの登場

ここでフローレンスが介入することが大きな転機となる。

リア・ミシェルは、緊迫感を保ちながらも状況を落ち着かせるバランス感覚を見せる。
彼女の声は混乱を切り裂くように響き、フレディの単なる補佐役ではないことを即座に印象づける。

フレディが不安定で爆発的であるのに対し、フローレンスは冷静で計算された存在であり、この対比が物語の重要な軸となる。

音楽的にも、アンサンブルの重なりが舞台上の圧力を表現し、フレディの割り込みが秩序を乱す。
フローレンスの登場によって、完全な静寂ではないが、嵐の中の一瞬の明瞭さが生まれる。

アービター

この楽曲は、ピンカムの演技力を示す代表的な一曲となるだろう。

冒頭から、前曲の混乱とは対照的な「統制」の感覚が漂う。
彼は単なる出演者ではなく、秩序を保つ役割を担う存在として舞台に立つ。

その歌唱は明確で、すべての言葉がしっかりと伝わる。
派手な技巧ではなく、意図と意味によって成立する楽曲であり、彼はそのバランスを見事に保っている。

1956年/ブダペストは燃えている/ノーバディズ・サイド

ここで初めて、このミュージカルの複雑さが明確になる。

アナトリーとフローレンスの出会い後、二人の間には強い化学反応が生まれる。
フレディは激怒し、トヴェイトはその感情を抑えつつも、次第に皮肉な態度へと変化させる。

フローレンスは反論し、自身の変化に気づいていく。
忠誠心は息苦しさへと変わり、アナトリーへの関心は新たな可能性へと変わっていく。

ノーバディズ・サイド

この楽曲は、フローレンスが初めて自分自身の立場を明確にする瞬間である。

単なる恋愛の選択ではなく、「どちらにも属さない」という意思表示であり、彼女の独立宣言である。

それまでの緊張、フレディとの関係、アナトリーとの出会い――すべてがこの瞬間に結実する。

かわいそうな子(ピティ・ザ・チャイルド)

一部では「ピティ・ザ・テナー」とも呼ばれる、テノールにとって極めて難易度の高い楽曲である。

この曲はトヴェイトによる「歌で演じる技術」の見本とも言える。

楽曲が始まると、それはもはやパフォーマンスではなく、崩壊の過程となる。
フレディはもはや自信を演じることはできず、感情的にも精神的にもむき出しの状態となる。

トヴェイトはその崩壊を徹底的に表現する。
制御と無秩序を同時に求められる難曲を、見事に体現している。

フレディの人間性

この場面でフレディは非常に人間的な存在として描かれる。

これまでの傲慢さや激しさの裏にあった、
・失敗への恐れ
・無価値になることへの恐れ
・重要な存在でありたいという欲求

が浮き彫りになる。

タイトルは皮肉にも、同情を求めながら弱さを拒絶する彼の姿を象徴している。

総評

このキャスト・アルバムは、クラシック作品の本質を保ちながらも、新しさと鮮度を加える方法を見事に示した、非常に優れた作品である。

https://www.thepacer.net/chess-cast-album-musical-storytelling-still-king/


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