ウィーンのウィーナー・シュタットハレに導入されたアマデウス・アコースティックスのイマーシブ音響プラットフォーム「ART」は、観客が目で見ている場所と、耳で聞こえる音の位置との一致を保った。
世界最大級のライブ放送の一つとされる「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」。第70回大会では、2回の準決勝とグランド・ファイナルを通じて、ウィーンのウィーナー・シュタットハレが極めて複雑な制作環境へと変貌した。
この屋内アリーナには約1万500人の観客が来場し、35組が出場。テレビでは約1億3,100万人が大会を視聴した。
2026年大会では、聴覚体験を向上させるために、いくつもの新しい手法が導入された。その中には、LアコースティックスのK3スピーカー・クラスターを中心に構成した、ユーロビジョン史上初となるカーディオイド型PAシステムのほか、マイクとインイヤーモニターに使用されたゼンハイザー・スペクテラが含まれていた。
音響エンジニアのリヒャルト・レドルと、ミキシングエンジニアのヨハネス・ミニヒマイヤーが率いる音響チームは、さらに複雑な課題にも直面した。
それは、番組の注目がメインステージとグリーンルームという二つのステージの間を移動する際、会場内の音も、その視覚的な焦点に追従させるにはどうすればよいかという問題だった。
アリーナの最奥部に設置されたグリーンルームは、出場者たちが本番前に待機する場所であると同時に、各セグメントの間に司会者が訪れ、アーティストたちに話を聞く場所でもあった。
音響チームは、グリーンルームで話す人々の声が、メインステージのPAから聞こえてくるように感じられるのではなく、実際に会場内のその場所から自然に発せられているような効果を生み出したいと考えた。
観客が感じる音の焦点を移動
そこで浮上したのが、PAから音が聞こえてくると感じる方向を反転させ、観客の音響的な意識をアリーナ前方から後方へ移動させるという発想だった。
重要なのは、この切り替えをスナップショットのような唐突な変化にしないことだった。観客が、その背後にある技術を意識して気を散らされることなく、移り変わる映像や演出を自然に追えるよう、十分になめらかな移行を実現する必要があった。
アマデウス・アコースティックスのイマーシブ音響プラットフォーム「ART」を導入したことで、チームは音像をリアルタイムで移動させ、観客が見ている場所と聞いている音の位置を一致させることができた。
ただし、音を絶えず動かし続ける方法は採用しなかった。このシステムは、メインステージとグリーンルームという二つの固定された空間的位置の間で、制御された移行を作り出すために使用された。
システムはDanteを介して、番組全体の音響インフラに接続された。アマデウスの「ART::IP」がイマーシブ処理モジュールとして使用され、「ART::Director」がミキシングコンソール、ダイレクトアウト・プロディジー・システム、空間音響ワークフローを結ぶソフトウェア・インターフェースとして機能した。
メインステージとグリーンルームの位置を固定したことで、OSC対応のストリームデックを通じて、それぞれの音響スナップショットを呼び出せるようになった。
さらに、この二つの位置の間にフェード時間を設定することで、観客が感じる音像を一方の場所からもう一方へ、突然飛ばすのではなく、なめらかに移動させることができた。
これにより、番組の進行中に音が聞こえてくる方向を切り替えるための、シンプルな運用手順が実現した。
大会期間中、「ART」システムは司会者がグリーンルームから話すたびに使用された。一方、音楽に使用されたのは、グランド・ファイナルの開会式という重要な場面に限られていた。
この開会式では、前年の優勝者によるパフォーマンスが披露された。モーツァルトに着想を得た要素に、ダンサー、アクロバット、オーケストラを融合させた演出で、その実現に「ART::IP」モジュールが極めて重要な役割を果たした。
オーケストラはグリーンルームに配置されていたため、チームは演奏のタイミング、音の定位、音楽としての連続性を保ちながら、全体のミックスを逆向きPAへフェードさせる必要があった。
アマデウスの「ART」を使用したことで、逆向きPAを構成するスピーカー・クラスターを容易に整合させることができた。その結果、唐突な中断や目立った音の変化を生じさせることなく、なめらかな移行が実現した。
音楽、司会者の声、そして番組全体の音響は、視覚的な演出と自然につながった状態を維持した。
「オーストリア史上、最も音の良いユーロビジョン」
「私たちは、求められている内容を検討し、それを実現する最善の方法を見つけるために、多くの時間を費やしました」とレドルは語る。
「技術制作パートナーのアゴラと、実現できる可能性について綿密に話し合いました。アゴラにはアマデウス・アコースティックスを扱った経験がありませんでしたが、新しいことを試すことには前向きでした」。
「最初のテスト運用を行った段階から、全員がその結果に感激していました。2回目の確認作業では、制作チームのメンバーから『オーストリアで開催されたユーロビジョンの中で、これまでで最も音が良い』と思う、と言われました」。
「ユーロビジョンが、このような方法でイマーシブ空間音響を使用したのは今回が初めてです。今後の大会では、さらに発展させることができるかもしれません」。






