レビュー:国際的に活躍する人気コメディアン、スコット・レッドモンドがジョークなしで1時間ABBAを歌う。どんでん返しもなし――ダンディー・フリンジ2026 ★★★★
ABBAづくしで繰り広げられる、まるで熱狂状態に陥りそうなこの1時間は、一日の締めくくりとしてはもちろん、ダンディー・フリンジを締めくくるにもぴったりの公演です。
ディスコとフリンジを祝うこのショーでは、小さな会場の中に、スコット・レッドモンドによって実に素晴らしい一体感が生み出されています。
スコットは、とっておきのABBA風衣装に身を包んで登場します。全身真っ白で、手足の動きを際立たせるフレアの衣装、そして仕上げには金髪のウィッグ。
大量のABBAナンバーを歌いながら、集まった人々を率いていくその姿は、イエス・キリストを思わせると言っても、それほど大げさではありません。
さらに曲ごとにスコットを支える出演者たちが加わり、しばしば彼を文字通り抱えて助けながら進行していきます。その光景は、ダンディー・フリンジ全体に流れるコミュニティ精神を見事に表しています。
スコットは、歌う曲の歌詞を一曲たりとも覚えてこなかったという徹底ぶりです。
スマートフォンを片手に立ち、「そのうち、曲のどこを歌っているのか分かるだろう」と信じながら歌い続けます。
しかし、その期待がかなうことはありません。それでも彼はまったくめげず、ひたすら一生懸命に歌おうとします。
そんなスコットを助けるのが、最前列で新たに「親友」となった観客です。彼も懸命に手助けしようとするのですが、スコットと同じくらい頻繁に間違えてしまいます。
観客の中には、質の高いABBAのカバー曲を聴けると思って、間違ってこの公演に来てしまった人もいました。
ところが、スコットがマドンナの「ハング・アップ」を歌い始めたことで、そんな期待はあっという間に打ち砕かれます。
もっとも、「ハング・アップ」にはABBAの楽曲がサンプリングされているので、「ABBA関連だから問題なし」というわけです。
そして観客は、スコット自身も認めているように、彼が実はそれほど歌が上手ではないことにも気づきます。
しかし、それがかえってこのショーを面白くしています。
やがて観客も一緒になって歌い始め、ショーは瞬く間に会場全体による大合唱へと変わっていきます。
ABBAの曲と曲の合間には、スコットが次の曲へ進むためのスライドショーも用意しています。
スウェーデン国旗の色を使ったスライドには、どれにもベタなジョークが盛り込まれており、スコットは可能な限り多くのジョークを詰め込もうとしています。
※スコット・レッドモンドとは?
今回のABBAの記事に登場するスコット・レッドモンド(Scott Redmond)は、スコットランドを拠点に活動するコメディアン、詩人、作家、パフォーマーです。検索すると同名のアメリカ人俳優が多く出てきますが、今回のダンディー・フリンジに出演した人物とは別人なので注意が必要です。
BBCから「スコットランドを代表するロマの詩人・コメディアン」と紹介された実績があり、英国だけでなく海外でも活動。公演紹介によれば、7か国でヘッドライナーを務めた経験があり、「チャートル・スチューデント・コメディ・アワード」のファイナリストにもなっています。また、BBCのデジタル・プラットフォーム「BBC The Social」への出演では、関連動画が300万回以上再生されたと紹介されています。
コメディだけでなく「詩」も武器
レッドモンドの特徴は、普通のスタンドアップ・コメディだけにとどまらないことです。詩、コメディ、奇妙なキャラクター、声色、音楽、マルチメディアなどを組み合わせるタイプのパフォーマーです。
2025年のダンディー・フリンジにも『Scott Redmond: Poetic Comedian』という公演で参加しており、2026年には彼が書いたキャラクター・モノローグを他のコメディアンや俳優が演じる『Signifying Nothing: An Afternoon of Theatrical Monologues』も上演されました。ダンディー・フリンジ公式サイトも彼を「comedian and poet」と紹介しています。
さらに、コメディ・パンク・バンドFEVER PEACHの一員としても活動しており、同グループでの活動は5つ星レビューを獲得したと公演プロフィールに記されています。
そしてABBAを1時間歌うという異色の公演へ
2026年のダンディー・フリンジで披露したのが、非常に長いタイトルの
『International Headlining Comedian Scott Redmond Sings the Songs of ABBA for an Hour with No Jokes. There is no Twist』
――直訳すれば、
「国際的に活躍する人気コメディアン、スコット・レッドモンドがジョークなしで1時間ABBAの曲を歌う。どんでん返しはありません」
という公演です。
タイトル通り(あるいはタイトルそのものがジョークのようですが)、白いフレア衣装と金髪のウィッグというABBAを意識した姿で登場。ところが、歌詞をきちんと覚えておらず、スマートフォンを見ながら歌い、観客まで巻き込んで、最終的には会場全体がABBAの大合唱になるという意図的にカオスな参加型コメディ・ショーでした。
途中ではマドンナの「ハング・アップ」まで歌います。この曲にはABBAの「ギミー!ギミー!ギミー!」がサンプリングされているため、「ABBAだからOK」という笑いにつなげています。曲間にはスウェーデン国旗を思わせる色使いのスライドを上映し、わざとベタなジョークを大量に盛り込むという構成でした。
レビュー誌『Binge Fringe Magazine』はこの公演を★★★★(4つ星)と評価し、ディスコへの「愉快でカオスなラブレター」と評しています。つまり、レッドモンドはABBAの本格的なトリビュート歌手というより、ABBAを題材にして、観客参加型のコメディと音楽を融合させたパフォーマンスを作ったコメディアンと理解するのが一番近いでしょう。
今回の記事を読むうえでは、「歌唱力でABBAを再現する人」ではなく、「ABBA愛と笑いを使って会場全体を巻き込む異色のコメディアン」という点がポイントです。
あらゆる要素が細かく考え抜かれており、このショーを可能な限りくだらなく、ばかばかしいものにしようというスコットの強いこだわりが伝わってきます。
そして何より、この公演を決して真面目に受け止めてはいけないということを、徹底して観客に伝えています。
周囲で起こっていることに身を任せ、肩の力を抜けば抜くほど、一瞬一瞬をもっと楽しめるようになるでしょう。
このショーは、ディスコへの愛を込めた、愉快でカオスなラブレターです。
スコットは、気分を解放してくれるような、素晴らしくも突き抜けた作品を作り上げました。
次に彼が同じくらい常軌を逸した企画を行なうときには、わざわざ探してでも観に行く価値があります。
おすすめのドリンク:
ABBAとディスコのすべてを祝って、プロセッコを一杯。
『国際的に活躍する人気コメディアン、スコット・レッドモンドがジョークなしで1時間ABBAを歌う。どんでん返しもなし』のダンディー・フリンジ2026での公演は、すでに終了しています。
※ダンディー・フリンジとは?
ダンディー・フリンジ(Dundee Fringe)は、スコットランド東部の都市ダンディーで毎年開催される舞台芸術・エンターテインメントのフェスティバルです。コメディ、演劇、音楽、キャバレー、ダンス、マジック、朗読・詩、ワークショップ、子ども向け公演など、ジャンルを横断した作品が街中の小劇場や特設会場に集まります。
今回のスコット・レッドモンドによる「ABBAを1時間歌い続ける」という一風変わった公演も、このフェスティバルで上演された作品の一つです。
2021年に始まった比較的新しいフリンジ
ダンディー・フリンジは2021年にスタートしました。2026年は第6回にあたり、9月11日から20日までの10日間開催されました。地元ダンディーのアーティストだけでなく、英国各地や海外からも出演者を迎えることを特徴としています。ダンディー・フリンジ
創設者で芸術監督のJD・ヘンショーは、地元で生まれた才能を紹介すると同時に、英国国内や海外のアーティストをダンディーに迎えることをフェスティバルの重要な役割として説明しています。Dundee City Council
「フリンジ」って何?
ここでいう「フリンジ(Fringe)」は、「周辺」「端」といった意味から発展した言葉です。舞台芸術では、大規模な商業劇場だけではなかなか上演できないような実験的、個性的、小規模な作品にも発表の場を提供する芸術祭を指す言葉として定着しています。
この文化を世界的に有名にしたのが、同じスコットランドで1947年に始まったエディンバラ・フェスティバル・フリンジです。もともとはエディンバラ国際フェスティバルに正式招待されなかった劇団が自主的に公演したことから始まり、現在では世界最大規模の舞台芸術祭となっています。スコットランド政府
ただし、ダンディー・フリンジとエディンバラ・フリンジは別のフェスティバルです。
2026年は5つの公演スペース
2026年のダンディー・フリンジでは、主に2つの文化施設の中に設けられた5つの公演スペースが使用されました。
一つはダンディー中央図書館内のSweet@The Steps Theatreで、「The Steps Theatre」と「The Library」の2スペース。もう一つがVictoria RoadにあるThe Little Theatreで、「Main Hall」「The Paint Room」「The Cellar」の3スペースです。Dundee City Council
つまり、一つの巨大な劇場で開催されるフェスティバルではありません。ダンディー中心部の複数の小さな会場を巡りながら、1日に何本もの作品を楽しむのがフリンジらしい楽しみ方です。
上演作品はかなり多彩
2026年のプログラムを見ると、通常の演劇やスタンドアップ・コメディだけではありません。シェイクスピア、即興劇、詩、ライブ音楽、ストーリーテリング、ダンス、キャバレー、家族向け公演などが並んでいました。ダンディー・フリンジ
例えばスコットランドの伝統歌から実験的な音楽まで幅広い音楽公演があり、演劇部門にも一人芝居から社会的テーマを扱った作品まで、多様な作品が参加しています。ダンディー・フリンジ
こうした環境だからこそ、スコット・レッドモンドのような、「コメディアンなのに、ジョークなしで1時間ABBAを歌う」という通常の劇場では分類しにくい作品も成立するわけです。
ABBA公演との関係
先ほどの記事で紹介された公演の正式タイトルは、
『International Headlining Comedian Scott Redmond Sings the Songs of ABBA for an Hour with No Jokes. There is no Twist』
という非常に長いものでした。
本格的なABBAトリビュート・バンドによる再現コンサートではなく、白いフレア衣装と金髪ウィッグを身につけたコメディアンがABBAを歌い、観客も次第に参加して大合唱になっていくという、音楽+コメディ+観客参加型パフォーマンスです。
まさに「普通の劇場公演ではちょっと変わりすぎている」という作品まで受け入れる、フリンジ文化らしさを象徴するABBA公演だったと言えるでしょう。
ダンディー・フリンジは、簡単に言えば、「ダンディーの街中を舞台に、プロから新進アーティストまでが個性的な作品を披露する、10日間の舞台芸術のお祭り」です。2026年は地元だけでなく英国・海外の作品も集まり、ダンディー市も市中心部の活性化や地元文化を支えるイベントとして位置づけています。Dundee City Council



