「グッド・モーニング・ブラッドストック」は、レーシング・ポストの競走馬生産・血統取材チームが毎日配信している会員限定メールです。今回は、その内容を無料サンプルとして公開します。
*写真:ニッキー・J・シムズ(ゲッティイメージズ)
今回はマーティン・スティーヴンズが、エアリー・スタッドのアンソニー・ロジャーズに、ベニー・アンダーソンが築きつつある競走馬の一族について話を聞きました。
ABBAは世界で約4億枚ものレコードを売り上げ、30か国以上でチャートの首位を獲得し、ロックの殿堂入りを果たし、大ヒット映画シリーズを生み出すきっかけとなりました。まさに世界的な文化現象となったグループです。
それにもかかわらず、創設メンバーのベニー・アンダーソンは、2013年にノルウェーのオーヴレヴォル競馬場で行なわれたG3マリット・スヴェオース記念で、自ら所有するバーリングとベアトリスオーロールが、それぞれ1着、2着を占めたとき、報道陣にこう語りました。
「ABBAで成し遂げたどんなことよりも、うれしい結果です」。
その瞬間の興奮で、つい言い過ぎてしまったのかもしれません。しかし、競馬の世界で彼と最も身近に仕事をしている人たちによれば、ベニーは競馬と生産から、本当に大きな喜びを得ているそうです。ですから、実際にはそれほど大げさな発言でもなかったのかもしれません。
そうであるならば、ここ数か月、とりわけ好調な成績を残している、自身の小さなサラブレッド王朝の発展を、ベニーは心から楽しんでいるに違いありません。
いま注目を集めるこの一族の起点は、モントシャインという牝馬です。父はレインボウクエスト、母はミルリーフ産駒の優秀な牝馬リヴァースペイ。したがって、ロイヤルウィップステークス勝ち馬ジャハフィルの全妹に当たります。
モントシャインをベニーのために購入したのは、ブリティッシュ・ブラッドストック・エージェンシーのジョニー・ルイスでした。ルイスはピーター・ドイルとともに、このポップスターが競馬に関心を持ち始めたころ、指南役を務めた人物です。
モントシャインの名前は、英語では「ムーンライト・ソナタ」として知られる、ベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光」に由来します。ジョン・ダンロップのもとで調教され、アンダーソンの黒と灰色のチェック柄の勝負服を背に、メゾンラフィット競馬場のリステッド競走、ベル・ド・ニュイ賞を含む2勝を挙げました。
モントシャインはベニーのために6頭の勝ち馬を送り出しました。その中には、スカンディナヴィアのリステッド競走を制したシベリウス、ヴィゲレゲーレ、レイ、そして先ほど触れたベアトリスオーロールがいます。
ベアトリスオーロールはジョン・ダンロップ、のちに息子のエド・ダンロップの管理下で、ハイト・オブ・ファッションステークスとクロエ賞に優勝。ほかにも数多くの大レースで上位に入り、とりわけカパネッレ競馬場のリディア・テシオ賞では、僅差の2着に健闘しました。
デインヒルダンサーを父に持つベアトリスオーロールは、ベニーの生産馬として5頭の勝ち馬を送り出しています。
その代表が、シーザスターズ産駒の牝馬ラヴェンダーズブルーです。アマンダ・ペレットの管理下で、実力馬ベンバトルを破ってセレブレーションマイルを制しました。また、オーストラリア産駒の牡馬ムーンバは、ジェシカ・ロングの管理下で、コペンハーゲンのリステッド競走に優勝しています。
そしていま、ラヴェンダーズブルーも繁殖牝馬として、はっきりとした可能性を示し始めています。
最初の2頭の産駒は、タイムテストを父に持つ3歳のせん馬タイムシーフと、キャメロットを父に持つ2歳牝馬ディヴァイドアンドコンカーです。
タイムシーフは、トム・クローヴァーの管理下でベニーの所有馬として走り、8月のデビュー以来、3戦2勝を挙げています。一方、ディヴァイドアンドコンカーは、タタソールズの10月1歳馬セール「ブック1」で32万ギニーで落札され、先月、ラルフ・ベケット厩舎、ヴィクトリアス・フォーエヴァーの所有馬として、バース競馬場のノービス競走で初勝利を挙げました。
ディヴァイドアンドコンカーは、土曜日にニューマーケット競馬場で行なわれるモントローズフィリーズステークスに登録しています。ただ、血統と馬体を見る限り、成長とともにさらに良くなることが確実と思われるだけに、今年どのような成績を挙げても、それはうれしい上積みと言えるでしょう。
ベアトリスオーロールとラヴェンダーズブルーは、アイルランドのキルデア州にあるエアリー・スタッドに預託されています。同牧場のアンソニー・ロジャーズによれば、ベニーは世界で最も有名な音楽家の一人として多忙な日々を送りながらも、自分の馬たちの管理に深く関わっているといいます。
*ディヴァイドアンドコンカー:先日バース競馬場で勝利を挙げた、ラヴェンダーズブルーの有望な産駒の一頭。
写真:エドワード・ウィテカー(racingpost.com/photos)
「ずいぶん前に、ジョン・ダンロップを通じてベニーを紹介してもらいました」とロジャーズは語ります。
「ベニーがアイルランドに繁殖牝馬を何頭か預けたいと言い、ジョンが親切にも私たちを推薦してくれたのです」。
「ベニーはとても冷静で、地に足のついた人です。自分の繁殖牝馬に関わることは何でも把握していたいと思っています。私はいつもワッツアップで馬たちの写真や動画を送っています」。
「いまも本当に忙しくて、まったく休むことがありません。電話をすると、ときどき『いまスタジオにいるから話せない』と言われるんです。そんなときは『何てことだ、ベニー、こちらは気にしないで。そのまま続けてください』と返します。何百万枚も売れるような彼の最新アルバムの録音を、私が邪魔してしまったのかと思うと、恐縮してしまいます」。
「この仕事を長く続けてきて、有名人にもたくさん会いましたし、普段はそれほど舞い上がりません。でも、ベニー・アンダーソンと話しているなんて、いまだに信じられない気持ちになることがあるのは認めざるを得ません」。
ベニーは、信頼する助言者たちとともに、交配計画にも意見を出しています。
「みんなで知恵を出し合い、良い答えにたどり着ければと思っています」とロジャーズ。
「夫のパドレイグとともに、スウェーデンでのベニーの競馬関係の活動全般を支えているジェシカ・ロングは、知識も経験も豊富で、意見を出してくれます。ロス・ドイルも同じです。彼の父親のピーターは、ベニーともう何十年もの付き合いがあります」。
「私たちは血統の組み合わせや馬体の相性を根拠に、なぜその交配を考えたのかを説明して、ベニーに提案します。彼も自分の意見を出し、その過程を本当に楽しんでいます。実際、本人も長年やってきていますから、何を話しているのか、よく分かっているんです」。
「できる限り関わりたいと思っている一方、とても忙しいので、細かなことではあまり手を煩わせないようにしています。そうしたことは私たちに任せてくれますが、交配については、可能であれば参加したいようです。彼にとって、一種の息抜きになっているのだと思います」。
ベニーの助言チームは昨年、ベアトリスオーロールにオーギュストロダンを交配することを決めました。その結果、「とても良い」牡の当歳馬が生まれています。今年はカミーユピサロを交配しましたが、残念ながら10月1日の時点で受胎していませんでした。
「18歳ですが、いまも本当に良い状態です」とロジャーズは話します。
「ベニーから、そろそろ繁殖を引退させるべきだろうかと聞かれました。でも、これまで大きな問題もなく、健康状態も素晴らしいので、もう一度挑戦してもいいのではないかと伝えました。もちろん状態次第ですが、私たちは通常、20歳までは交配しています。彼女なら来年も大丈夫でしょう」。
ラヴェンダーズブルーには現在、当歳馬も1歳馬もいませんが、ニューベイの仔を受胎しています。
「2年続けて産駒がいないのは残念です。でも、これで軌道に戻ってくれればと思います。それに、彼女のような若くて有望な繁殖牝馬なら、出来の良くない仔が2頭生まれて、競走で振るわず、繁殖成績を落としてしまうよりも、仔がいないほうがいいという考え方もあります」とロジャーズは説明します。
*ラヴェンダーズブルー(右):「とても賢い馬で、放牧地にいるときは、いつも耳をぴんと立てています」
写真:エドワード・ウィテカー(racingpost.com/photos)
名繁殖牝馬となる可能性を秘めたラヴェンダーズブルーについて、さらにこう続けます。
「彼女には本当に楽しませてもらいました。素晴らしい競走牝馬で、非常に優れた実績を積み重ねました。ベンバトルを破っていますし、ダリアステークスではレディボウソープに僅差の3着でした」。
「繁殖に上がってからも、申し分ありません。シーザスターズは母の父として、並外れて優秀だと思います。エアリー・スタッドでも、彼を父に持つ繁殖牝馬を、もう少し所有したほうがいいのかもしれません」。
「見た瞬間に圧倒されるほどではありませんが、十分に見栄えのする馬です。全体のつくりのバランスが良く、昔から動きがとてもきれいでした。それに、気性も素晴らしい。馬にとって、それはとても大切なことです。非常に賢く、放牧地にいるときも、いつも耳を立て、周囲で何が起きているかに気を配っています」。
タイムシーフは、母の優れた能力と安定した気性を受け継いでいるようです。ヤーマス競馬場でデビュー勝ちを収め、リポン競馬場での2戦目では期待を裏切ったものの、ケンプトン競馬場の11ハロンの難しいハンデ戦で、再び勝利をつかみました。
「確かに、勝ったのはハンデ戦にすぎません。でも、ノービス競走から初めて別の条件のレースに挑んで、あの勝ち方をしたのは特別でした。簡単にできることではありません」とロジャーズは言います。
「厳しい位置から追い上げ、アンドリュー・ボールディング厩舎のカメコ産駒で、1番人気に支持されていた実力馬ケープフィアーと、イアン・ジャーディン厩舎のドバウィ産駒である好馬ティアナンを破ったんです。トムは本当に素晴らしい仕事をしてくれました。いまは少し休ませています。デビュー勝ちのあと、ベニーにはかなり良い購入の申し出がありましたが、断っています」。
ベニーは以前から、競馬は趣味であり、利益を期待しているわけではないと語っています。とはいえ、物事を見極める実業家として、際限なく巨額の資金をつぎ込むつもりもありません。
ロジャーズはこう話します。
「数年前、彼がこう言ったんです。『アンソニー、繁殖牝馬が増えすぎてしまった。1歳の牝馬を何頭か売ったら、気を悪くするかな?』。私は『私の仕事は、あなたのために競走馬を生産することです。残すか売るかは、すべてあなた次第ですよ』と答えました」。
「それで昨年、ディヴァイドアンドコンカーを売り、良い値段がつきました。とても有望に見えますから、ラヴェンダーズブルーに来年もう一度キャメロットを交配することを、真剣に検討しなければならないでしょう。また、ベアトリスオーロールのニューベイ産駒の牝馬も、デイヴィッド・レッドヴァースに23万ユーロで売りました。その馬はアンドレ・ファーブル厩舎にいて、順調にいっているようです」。
「ベニーは夏に、タイムシーフに届いた購入の申し出の一つを、もう少しで受けるところでした。でも、トムが『この馬は今後、もっと良いレースを勝てるはずだ』と言ったので、しばらく所有して楽しみ、来年の終わりに売却を検討することにしたのです」。
真のポップ界の象徴ともいえる人物の生産活動を支える仕事には、うれしい特典もあります。
「ベニーが親切にも、ロンドンで行われた『ABBAヴォヤージ』の開幕に招待してくれました。制作費が1分当たり100万もかかるらしい、あのバーチャルコンサートです」とロジャーズは言います。
「私は妻と行き、母のソニア・ロジャーズはサー・マーク・プレスコットを連れて行きました。ちょっと不思議な顔ぶれでしたね。その後のパーティーにも参加しました。本当に楽しかったです」。
アンダーソンは、まさしく競馬界にとっての贈り物です。
ラヴェンダーズブルー、ベアトリスオーロール、モントシャインという素晴らしい牝系から生まれた、数々の一流馬を競馬界にもたらしただけではありません。
いつも非の打ちどころなく身なりを整えているヒース・ハウス厩舎の主、マーク・プレスコットが、「ダズ・ユア・マザー・ノウ」に合わせて体を揺らしている――そんな光景まで、私たちに想像させてくれたのです。
※見出しの「ブルーヘン」は競馬の生産用語で、優秀な競走馬や繁殖馬を送り出し、牝系の発展に大きく貢献する名繁殖牝馬を意味します。





